然も破壞|潰裂《くわいれつ》させられるのを如何《いかん》ともし難い。地獄|變相《へんざう》の圖の樣な景色が出來ても是非に及ばないが、何人にも詩人的情緒は有るから、生氣に充《み》ちた青々《あを/\》とした山々の間に、鬼々《おに/\》しくなつた枯木の山を望んでは黯然としてこれを哀しまないものは無い。段々走つて白岩あたりに行くと、岸のさま湖のさまも物さびて、巨巖危ふく水に臨み、老樹|矮《ち》びて巖に倚《よ》るさまなど、世ばなれてうれしい。仰げば蓋《かさ》を張つたやうな樹の翠、俯《うつむ》けば碧玉を溶《と》いたやうな水の碧《あを》、吾が身も心も緑化するやうに思はれた。
 千手が濱から赤岩、丁度白岩に對してゐるが、岩こそ赭色なれ、こゝも宜い景色である。千手が濱で艇を出て、アングリング・エンド・カウンツリー・クラブの養魚場を見たが、舟から上つて平地の林の中へ入つて行く感じは眞に平和な仙郷へでも入るやうで、甚だ人に怡悦《いえつ》の情を味はしめた。緑蔭鮮かなるところ、小流れの清水を一區畫一區畫的に段々たゝへて、川マス、ニジマス、ブルトラウト、スチールヘッド等の各種鱒族の幼魚を養つてある。水清く魚|健《
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