を望む。叡山筑波山の如きは無くもがなのものだといふ評さへ聞くが、こゝのは蓋《けだ》し出來れば出來た方が婦女老幼のために甚大の利を餽《おく》ることにならう。
歸路《きろ》についた。白雲の瀧、かさゝぎの橋は矢張り好い感じを人に與へる。歸りは上りになるのと、一度でも歩いた路なのとで、嶮峻の感じを大に薄くする。上り了《をは》つて一休みしながら、下までの深さを考へると、箱根の大路から堂ヶ島へ下りる位、或はそれより一二丁少しくらゐのものであつた。
中禪寺の區長に迎へられて、人々と共に宿に還ると直《たゞち》に湖に泛んだ。モーターボートで湖を一周しようといふのである。四山環翠、一水澄碧の湖上に輕艇を駛《はし》らすれば、凉風|面《おもて》を撲《う》つて、白波ふなばたに碎くるさま、もとより爽快の好い心持である。歌が濱の佛國、英國、獨國大使別館、いづれも景勝の地を占めて湖に臨んでゐる。立木觀音で艇を出でゝ、立木をきざんだ本尊の古拙ではあるが面白い像を見、勝道上人の所持であつたといふ傳《でん》の刀子《たうす》だの錫杖《しやくぢやう》だのを見た。
勝道上人は日光の開山者で、日光を開くために前後十數年を費《
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