あつたり、親切に出來てゐるから危いことも無い。
 次第々々に下りて行くと華嚴の瀑布は見えなくなるが、やがてどう/\といふ瀑布の音が聞えて、右手に立派な瀧が見える。それは白雲の瀧といふので、その瀧の末の流れを鵲《かさゝぎ》の橋によつて渡つて對岸へ路はつゞく。橋の上は丁度白雲の瀧を見るによい。これは屈折はしてゐるが五十間であるから、他の土地に在つたら本尊樣になるだけの立派な瀧だが、華嚴の近くにあるので月前の星のやうに人に思はれるのは是非が無い。併し鵲の橋の上に立つてゐると瀧が近いので、瀧飛沫は冷やかに領《えり》に下《お》ちて衣袂《いべい》皆しめり、山風颯然として至つて、瀧のとゞろき、流の沸《たぎ》りと共に、人をして夏のいづこにあるかを忘れしむるところ、捨て難いものがある。橋の名も宜い、瀧の名も宜い、紅葉の頃には特《こと》にウツリが宜からうと思はれる雅境である。橋を渡つて巖路を一轉囘すると、やがて華嚴の大觀は前面に現れた。

     四

 大谷川の源頭の流れに對し、華嚴の大瀑布を右手の軒近く看て、小茶亭が立つてゐる。それが即ち五郎兵衞茶屋であつて、今日のところではこの茶店又はその附近程、
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