天下の名瀑布たるこの瀑布の絶景を賞するに適した處は無い。大谷川となつて瀧の水が流れ出す東の一方を除いては、三方は翠峯青嶂に包まれてゐるその中央の高處から雪と噴《ふ》き雷《らい》と轟いて、岩壁にもさはらずに一線に懸空的に落ちて來るのが華嚴の壯觀である。瀧の幅と高さの比例も自然に甚だ審美的であり、瀧壺の大きさもこれにかなつてゐる。瀧の背景になつてゐる岩壁も上半部が三段ばかりに横※[#「ころもへん+責」、第3水準1−91−87]《よこひだ》になつて見えるが、その最上部のものは恰も屋簷《ひさし》のやうに張出してゐて、その縁邊が鋸齒状《きよしじやう》をなしてゐるので鋸岩《のこぎりいは》といふさうであるが、若《も》しそれ近くついて視る時は、屋簷のやうに張り出してゐるその出《で》が五間餘もあるといふのであるから驚く。これ等の巖壁の罅隙は、無數に亂飛してゐる巖燕の巣であつて、全く燕でなくては到る能はざるところである。巖壁の中部より下は、幾條となく水がほとばしり出してゐて各※[#二の字点、1−2−22]衞星的小瀑布をなしてゐる。その中で數へるに足りるのが十二もあるので、十二の瀧といふ名を與へられてゐる。
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