るを認めたる、おもしろさ何とも云ひがたし。

      棣棠

 やまぶきは唐《から》めかぬ花なり。籬にしたるは、卯の花とおもむき異にして、ゆかしさ同じ。八重ざきの黄なる殊に美し。あてなる女の髪黒く面白きが、此の花を簪《かざし》にしたる、いと美はし。女の簪には、此の花などこそをかしかるべけれ。薔薇は香高きに過ぎ、花美しきに過ぎたらずや。

      米嚢花

 けしは咲きたりと見るやがて脆くも散り行きて、心たくましき人に物のあはれを教へ顔なる、をかし。たとへば、をさなくて美しき児の、女になりたりと見ゆるやがてに、はや身ごもりて腹ふくだみたるがごとし。今しばし男持たずてありもすべきをと、よそより云ふも、美しさに浅からず心寄せたるあまりの後言《しりうごと》なるべし。

      山茶花

 つばきはもと冬の花なり。爛紅火の如く雪中に開く、と東坡の云ひけんはまことの風情なるべし。我邦にては、はやくより咲くもあれど、春に至りて美しく咲きこぼるゝを多しとす。花の品甚だ夥《おほ》きにや、享保の頃の人の数へ挙げたるのみにても六十八種あり。これもまた好み愛づる人の多くなれば、花の品の多くなり行く
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