こと、牡丹などの如くなるものならん。月丹、照殿紅などは、唐土《もろこし》にての花大なるものの名なり。わびすけ、しら玉は我邦にての花白きものの名なり。藪椿のもさ/\と枝葉茂れるが中に濃き紅の色して咲ける、人は賤しといふ、我はおもしろしと思ふ。わびすけの世をわび顔に小さく咲ける、人は見るに栄《はえ》無しといふ、我はをかしと思ふ。こせ山のつら/\つばきと歌にいへるも、いかで今の人の美しとほむるきはの花ならんや。
 つばきは葉もよし。いつも緑にして光ある、誰か愛づるに足らずといふべきや。松杉の常盤なるとは異りて、これはまた、これのおもむきあり。奉書といふ紙を造るをり、この葉の用ゐらるゝことあるに定まれるもをかし。

      側金盞花

 福寿草は、小さき鉢に植ゑて一月の床に飾らるゝものと定まれるやうなり。野山に生ひたるは、画にこそ見たることもあれ、まことには眼にしたる事無し。さすがに、ゆかしきかたも無きにはあらず。されどこの花、備後おもての畳の上にのみある人の愛づべきものなるべし。土踏むことを知りたるものの心ひくべきおもむきは有たざらむ歟《か》。款冬花《ふきのたう》にはほゝゑみたる事あり、
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