−86−72、124−9]《うる》ほへる、いづれ艶なるおもむきならぬは無し。緋《ひ》木瓜《ぼけ》はこれの侍婢《こしもと》なりとかや。あら美しの姫君よ。人を迷ひに誘ふ無くば幸なり。

      巵子

 くちなしは花のすねものなり。生籬《いけがき》などに籠めらるれど恨む顔もせず、日の光りも疎きあたりに心静けく咲きたる、物のあはれ知る人には、身を潜め世に隠れたるもなか/\にあはれ深しと見らるべし。花の香もけやけくはあらで優に澄みわたれる、雲さまよふ晨、風定まる黄昏など、特《こと》に塵の世のものならぬおもむきあり。

      瑞香

 ぢんちやうげは、市人の俳諧学びたるが如し。たけも高からず、打見たるところも栄《はえ》無けれど、賤しきかたにはあらず。就いて見《まみ》えばをかしからじ、距《へだゝ》りて聞かんには興あらん。

      忘憂

 萱草のさま/″\の草の間より独り抜け出でゝ長閑に咲ける、世に諂はず人に媚びず、さればとて世を疎みもせず人に背きもせざるおもむきあり。花も百合の美しさは無けれど、しほらしさはあり。よろづ温順《すなほ》にして、君子の体を具へて小なるものともいひつべき
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