ぐさみなり。百貫目の利銀には今すこしは思ふまゝなるべきところを、いかな/\然《さ》はせずして心を心にいましめ、なまなかの遊びを思はず、只花鳥に物好をあらためて、宗因の孫西山昌札の門弟となり、連歌を仕習ふ。むかしは島原にて聞くを悦びし時鳥も今は聞かぬ初音に五文字をたくむなど、人のするほどのことは仕尽してのなれの果にもまた楽みあり。折から葭籬《よしがき》のもとに、いつのこぼれ種子《だね》やら朝顔の二葉《ふたば》土を離れて、我がやどすてぬといへる発句の趣向をあらはす。日暮々々に水そゝげば此草とりつく便《たより》あるに任せて蔓をのばし、はや六月の初め、ひと花咲きそめて白き※[#「※」は「均のつくり」、読みは「にほひ」、第3水準1−14−75、145−3]に露も猶をかしう七夕の名を捨てぬしるしを見《あらは》す。これに心を寄せていつしか我が癖の朝寐を忘れ、紐とく花の姿見んと蚊帳を離れて一ぷくの煙草吸ふに、心嬉しさいふばかりなし。手づから井の水を汲みあげ、寐顔の※[#「※」は「均のつくり」、読みは「にほ」、第3水準1−14−75、145−5]ひを洗ひ捨てゝ四方山《よもやま》を見るに、さりとは口惜しや
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