に花の六つ七つ五つ咲くさまは玉簪花《ぎぼし》の如し。谷中に住める時、庭の隅にこれの咲きたるを見出して、雨そゝぎに移し植ゑ置きしに、いつとも無く皆亡せたりき。寺島の住居の庭のは日あたりよきところにあればにや今に栄ゆ。湿り気を嫌ふ性とおぼゆ。此花のさまに依りて少しく想ひを加へ、鬼の面を画き出さんにはいとあやしかるべしと、去年もおもひき、今年もおもひつ。
牽牛花
朝寐は福の神のお嫌ひなり。若き時|活計《みすぎ》疎く、西南の不夜城に居びたりのいきつき酒して耳に近き逐ひ出しの鐘を恨み、明けて白む雲をさへうるさやと遣戸《やりど》さゝせ、窓塞がせ、蝋燭を列べさせて、世上の昼を夜にして遊ぶも、金銀につかへぬ身のすることならば、人のかまふべくも無し。されども尽くる時には尽き易き金銀にて、光りを磨きし餝屋《かざりや》とて日本の長者の名ありしものも、今は百貫目に足らぬ身代となり、是にては中々今までの格式を追ひ難しと急《にはか》に分別極めて家財を親類に預け、有り金を持つて代々の住所を立退き、大阪の福島に坊主行義の世帯して北に見渡す野山の気色《けしき》に自ら足れりとしける。さりとは物のいらぬな
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