、もてあそびものめきたれど憎からず。これの実を指にて摘めば虫などの跳《はね》るやうに自ら動きて、莢《さや》破れ子《み》飛ぶこと極めて速やかなり。かゝるものを見るにつけても、草に木に鳥に獣にそれ/″\行はるゝ生々の道のかしこきをおもふ。此物何ぞ数ふるに足らんと劉伯温の云ひしはいかが。

      断腸花

 秋海棠は丈《たけ》の矮きに似ず葉のおほやうにて花のしほらしきものなり。たとへば貴ききはにあらぬ女の思ひのほかに心ざま寛《ゆる》やかにて、我はと思ひあがりたるさまも無く、人に越えたる美しさを具へたらんが如し。北にむきたる小さき書斎の窓の下などに此花の咲きて、緑の苔の厚う閉ぢたる地を蔽ひたる、いかにも物さびて住む人の人柄もすゞしげに思ひなさる。

      白※[#「※」は「くさかんむり+及」、読みは「きゅう」、第4水準2−85−94、143−10]

 白※[#「※」は「くさかんむり+及」、読みは「きゅう」、第4水準2−85−94、143−11]は世の人しらんと呼ぶ。紅勝ちたる紫の薄色の花の形、春蘭に似て細かに看れば甚だ奇なり。葉は一葉《はらん》をいたく小さくしたるが如く、一つの茎
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