を生《おふ》し立てしが、其紅の色の濃からぬを訝しみつゝ朝な夕な疑ひの眼を張りて打まもりたりしをかしさ、今に忘れず。

      鉄線蓮

 てつせんは、詩にも歌にも遺《わす》れられて、物のもやうにのみ用ゐらるゝものなるが、詩歌に採らるべきおもむき無きものにはあらじ。籬などに纏ひつきつ、風車のようなる形して咲き出でたる花の色白く大なるが程よく紫ばみたる、位高く見えて静に幽《かすか》なるところある美はしきものなり。愛で悦ぶ人の少きにや、見ること稀なり。心得ず。

      芍薬

 牡丹は幹の老いからびて、しかも眼ざましく艶なる花を開くところおもしろく、芍薬は細く清げなる新しき茎の上にて鮮やかに麗はしき花を開くところ美し。牡丹の花は重げに、芍薬の花は軽げなり。牡丹の花は曇りあるやうにて、芍薬の花は明らかなるやうなり。牡丹は徳あり、芍薬は才あり。

      鳳仙花

 前栽の透籬《すいがき》の外などに植ゑたるは、まことによし。眼近きあたりに置きて見んはいさゝかおもしろからざるべくや。浅みどりの葉の色茎の色、日の光に透くやうに見えたるに、小き花のいと繁くも簇《むらが》がりて紅う咲きたる
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