より後より新しき花の咲き出づるは、主人《あるじ》がよろこぶところなるべし。木ぶりの※[#「※」は「やまいだれ+瞿」、読みは「や」、第3水準1−88−62、141−3]せからびて老いたるものめきたるにも似ず、小女などのやうに、人の手のおのが肌に触るれば身を慄はしておのゝくは如何なる故にや。をかし。

      紅花

 べにの花は、人の園に養ひ鉢に植ゑたるをば見ねど、姿やさしく色美しくて、よのつね人々の愛でよろこぶ草花なんどにも劣るべくはあらぬものなり。人は花の大きからねば眼ざましからずとてもてはやさぬにや、香の無ければゆかしくもあらずとて顧みぬにや。花は其形の大きくて香の高きをのみ愛づべきものかは。此花おほよそは薊に似て薊のように鬼々《おに/\》しからず、色の赤さも薊の紫がゝりたるには似で、やゝ黄ばみたれば、いやしげならず、葉の浅翠《あさみどり》なるも、よく暎《うつ》りあひて美しく、一体の姿のかよはく物はかなげなる、まことにあはれ深し。べには此花より取るものなれど、此花のみにては色を出さず、梅の酸《す》にあひて始めて紅の色の成るなり。いまだこの事を知らざりし折、庭の中にいささかこの花
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