どは、人に知られぬもをかし。花の形しほらしく、色ゆかし。花弁《はなびら》のちり/″\にならで散ればにや、手に取りて弄びたき心地もするなり。
※[#「※」は「くさかんむり+溪」、読みは「けい」、139−6]※[#「※」は「くさかんむり+孫」、読みは「そん」、第3水準1−91−17、139−6]
はなあやめは、花の姿やさしく、葉の態《さま》いさぎよし。心といふ字の形して開きたる、筆の穂の形して猶開かざる、皆好し。雨の日のものにはあらず、晴れたる日のものなり。夕のものにはあらず、暁または昼のものなり。人の力を仮らざれば花いと※[#「※」は「やまいだれ+瞿」、読みは「や」、第3水準1−88−62、139−9]す。されど、おのづからなるが沼などに弱々しく咲き出でたるものまた趣ありて、都にして見んには口惜き花のさまやなどいふべし、旅にして見れば然《さ》もおもはず。古き歌にいへるあやめはこれならずとかや。今上野あたりの野沢などに多く咲くものは何なるべきや。物の名の古と今との違ひは、しば/\よまむとおもふ歌をも心の疑ひに得読まで終らしむ。おろかなることかな。
石竹
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