万人を殺して終つた事がある。其の四十万人が皆同じ年月の生れであつたか、何様だ、そんな事は思へまい、してみれば生れ年月で運命が何様の彼様のといふのは当になるまい、と論じて居ります。ルシタニヤ号の沈没、先年の大地震、一時に大勢死んで居ります。それが一※[#二の字点、1−2−22]何で生れ年月の如何に因りませう。二十八宿や七曜や九星や、いづれも当にする人には当になるか知りませぬが、当にならないと思つた日には何で当になりませう。まるで夢見たやうな事ではありますまいか。方位によつて従来行動の吉凶祝福を申しまするのも、二千年も前の慰繚子といふ兵法家が既に嘲笑つて居りまして、方角の好否で戦の勝敗が定まつて堪るものかと申して居ります位です。支那の古い人でさへ其通りです、今の人が何で理を観ること古の人に及ばぬやうな下らぬ考を持つて居られませうや。
 人の相貌骨格も其当人が自分で定めたものでありませぬから、先づ運命前定説が一半だけは是認せられる訳でして、何様も不美人に生れついては男子に愛されぬ勝で、醜夫に生れついては婦人の悦ぶところとならぬ勝ですから、鏡に対して憮然たる人も世に多い訳ですが、幸にして人間は
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