供をつれて船を漕《こ》がせて、湖の鷭を狙撃《ねらいうち》に撃って廻る。犬が三頭――三疋とも言わないで、姐さんが奴等《やつら》の口うつしに言うらしい、その三頭も癪《しゃく》に障った。なにしろ、私の画《え》が突刎《つっぱ》ねられたように口惜《くやし》かった。嫉妬《ねたみ》だ、そねみだ、自棄なんです。――私は鷭になったんだ。――鷭が命乞いに来た、と思って堪《こら》えてくれ、お澄さん、堪忍してくれたまえ。いまは、勘定があるばかりだ、ここの勘定に心配はないが、そのほかは何にもない。――無論、私が志を得たら……」
「貴方。」
とお澄がきっぱり言った。
「身を切られるより、貴方の前で、お恥かしい事ですが、親兄弟を養いますために、私はとうから、あの旦那のお世話になっておりますんです。それも棄て、身も棄てて、死ぬほどの思いをして、あなたのお言葉を貫きました。……あなたはここをお立ちになると、もうその時から、私なぞは、山の鳥です、野の薊《あざみ》です。路傍《みちばた》の塵《ちり》なんです。見返りもなさいますまい。――いいえ、いいえ……それを承知で、……覚悟の上でしました事です。私は女が一生に一度と思う事
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