をしました。貴方、私に御褒美を下さいまし。」
「その、その、その事だよ……実は。」
「いいえ、ほかのものは要りません。ただ一品《ひとしな》。」
「ただ一品。」
「貴方の小指を切って下さい。」
「…………」
「澄に、小指を下さいまし。」
少からず不良性を帯びたらしいまでの若者が、わなわなと震えながら、
「親が、両親《ふたおや》があるんだよ。」
「私にもございますわ。」
と凜《りん》と言った。
拳《こぶし》を握って、屹《きっ》と見て、
「お澄さん、剃刀《かみそり》を持っているか。」
「はい。」
「いや、――食切《くいき》ってくれ、その皓歯《しらは》で。……潔くあなたに上げます。」
やがて、唇にふくまれた時は、かえって稚児《おさなご》が乳を吸うような思いがしたが、あとの疼痛《いたみ》は鋭かった。
渠《かれ》は大夜具を頭から引被《ひっかぶ》った。
「看病をいたしますよ。」
お澄は、胸白く、下じめの他《ほか》に血が浸《にじ》む。……繻子《しゅす》の帯がするすると鳴った。
[#地から1字上げ]大正十二(一九二三)年一月
底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
1995(
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