に顔が見られなかった。首筋の骨が硬《こわ》ばったのである。
「貴方、ちょっと……お話がございます。」
お澄が静《しずか》にそう言うと、からからと釣《つり》を手繰って、露台の硝子戸《がらすど》に、青い幕を深く蔽《おお》うた。
閨《ねや》の障子はまだ暗い。
「何とも申しようがない。」
雪は※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》となって手を支《つ》いた。
「私は懺悔《ざんげ》をする、皆嘘だ。――画工《えかき》は画工で、上野の美術展覧会に出しは出したが、まったくの処は落第したんだ。自棄《やけ》まぎれに飛出したんで、両親には勘当はされても、位牌《いはい》に面目のあるような男じゃない。――その大革鞄《おおかばん》も借《かり》ものです。樊※[#「口+會」、第3水準1−15−25]《はんかい》の盾だと言って、貸した友だちは笑ったが、しかし、破りも裂きも出来ないので、そのなかにたたき込んである、鷭を画《か》いたのは事実です。女郎屋《じょろや》の亭主が名古屋くんだりから、電報で、片山津の戸を真夜中にあけさせた上に、お澄さんほどの女に、髪を結《い》わせ、化粧をさせて、給仕につかせて、
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