真うつむけに背ののめった手が腕のつけもとまで、露呈《あらわ》に白く捻上《ねじあ》げられて、半身の光沢《つや》のある真綿をただ、ふっくりと踵《かかと》まで畳に裂いて、二条《ふたすじ》引伸ばしたようにされている。――ずり落ちた帯の結目《むすびめ》を、みしと踏んで、片膝を胴腹へむずと乗掛《のりかか》って、忘八《くつわ》の紳士が、外套も脱がず、革帯を陰気に重く光らしたのが、鉄の火箸《ひばし》で、ため打ちにピシャリ打ちピシリと当てる。八寸釘を、横に打つようなこの拷掠《ごうりゃく》に、ひッつる肌に青い筋の蜿《うね》るのさえ、紫色にのたうちつつも、お澄は声も立てず、呼吸《いき》さえせぬのである。
「ええ! ずぶてえ阿魔《あま》だ。」
と、その鉄火箸《かなひばし》を、今は突刺しそうに逆に取った。
この時、階段の下から跫音《あしおと》が来なかったら、雪次郎は、硝子を破って、血だらけになって飛込んだろう。
さまでの苦痛を堪《こら》えたな。――あとでお澄の片頬に、畳の目が鑢《やすり》のようについた。横顔で突《つっ》ぷして歯をくいしばったのである。そして、そのくい込んだ畳の目に、あぶら汗にへばりついて、
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