《ドア》を開けた出会頭《であいがしら》に、爺やが傍《そば》に、供が続いて突立《つった》った忘八《くつわ》の紳士が、我がために髪を結って化粧したお澄の姿に、満悦らしい鼻声を出した。が、気疾《きばや》に頸《くび》からさきへ突込《つっこ》む目に、何と、閨《ねや》の枕に小ざかもり、媚薬《びやく》を髣髴《ほうふつ》とさせた道具が並んで、生白《なまじろ》けた雪次郎が、しまの広袖《どてら》で、微酔《ほろよい》で、夜具に凭《もた》れていたろうではないか。
正《しょう》の肌身はそこで藻抜けて、ここに空蝉《うつせみ》の立つようなお澄は、呼吸《いき》も黒くなる、相撲取ほど肥った紳士の、臘虎襟《らっこえり》の大外套《おおがいとう》の厚い煙に包まれた。
「いつもの上段の室《ま》でございますことよ。」
と、さすが客商売の、透かさず機嫌を取って、扉《ドア》隣へ導くと、紳士の開閉《あけたて》の乱暴さは、ドドンドシン、続けさまに扉が鳴った。
五
「旦那《だんな》は――ははあ、奥方様と成程。……それから御入浴という、まずもっての御寸法。――そこでげす。……いえ、馬鹿でもそのくらいな事は心得ております
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