はない。が、女の力だ。あなたの情《なさけ》だ。――この潟の水が一時凍らないとも、火にならないとも限らない。そこが御婦人の力です。勿論まるきり、その人たちに留《や》めさせる事の出来ない事は、解って、あきらめなければならないまでも、手筈《てはず》を違えるなり、故障を入れるなり、せめて時間でも遅れさして、鷭が明らかに夢からさめて、水鳥相当に、自衛の守備の整うようにして、一羽でも、獲ものの方が少く、鳥の助かる方が余計にしてもらいたい。――実は小松からここに流れる桟川《かけはしがわ》で以前――雪間の白鷺を、船で射た友だちがあって、……いままですらりと立って遊んでいたのが、弾丸《たま》の響《ひびき》と一所に姿が横に消えると、颯《さっ》と血が流れたという……話を聞いた事があって、それ一羽、私には他人の鷺でさえ、お澄さんのような女が殺されでもしたように、悚然《ぞっ》として震え上った。――しかるに鷭は恩人です。――姐さん、これはお酌を強請《ねだ》ったような料簡《りょうけん》ではありません。真人間が、真面目《まじめ》に、師の前、両親の前、神仏の前で頼むのとおなじ心で云うんです。――私は孤児《みなしご》だが
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