すぐにまたまいります。」
「何、あっちで放すものかね。――電報一本で、遠くから魔術のように、旅館の大戸をがらがらと開けさせて、お澄さんに、夜中に湯をつかわせて、髪を結わせて、薄化粧で待たせるほどの大したお客なんだもの。」
「まあ、……だって貴方、さばき髪でお迎えは出来ないではございませんか。――それに、手順で私が承りましたばかりですもの。何も私に用があっていらっしゃるのではありません。唯今は、ちょうど季節だものでございますから、この潟へ水鳥を撃ちに。」
「ああ、銃猟に――鴫《しぎ》かい、鴨《かも》かい。」
「はあ、鴫も鴨も居ますんですが、おもに鷭《ばん》をお撃ちになります。――この間おいでになりました時などは、お二人で鷭が、一百《いっそく》二三十も取れましてね、猟袋に一杯、七つも持ってお帰りになりましたんですよ。このまだ陽が上《あが》りません、霜のしらしらあけが一番よく取れますって、それで、いま時分お着《つき》になります。」
「どこから来るんだね、遠方ッて。」
「名古屋の方でございますの。おともの人と、犬が三頭、今夜も大方そうなんでございましょうよ。ここでお支度をなさる中《うち》に、馴
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