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畳《たたみ》の左右に、はら/\と音するは、我を襲ふ三|疋《びき》の外《ほか》なるが、なほ、十《とお》ばかり。
其の或者《あるもの》は、高波《たかなみ》のやうに飛び、或者は網《あみ》を投げるやうに駆け、衝《つ》と行き、颯《さっ》と走つて、恣《ほしいまま》に姉の留守の部屋を暴《あら》すので、悩み煩《わずら》ふものは単《ただ》小児《こども》ばかりではない。
小箪笥《こだんす》の上に飾つた箱の中の京人形は、蠅が一斉にばら/\と打撞《ぶつか》るごとに、硝子越《がらすごし》ながら、其の鈴のやうな美しい目を塞《ふさ》いだ。……柱かけの花活《はないけ》にしをらしく咲いた姫百合《ひめゆり》は、羽の生えた蛆《うじ》が来て、こびりつく毎《ごと》に、懈《た》ゆげにも、あはれ、花片《はなびら》ををのゝかして、毛《け》一筋《ひとすじ》動かす風《かぜ》もないのに、弱々《よわよわ》と頭《かぶり》を掉《ふ》つた。弟は早《は》や絶入《たえい》るばかり。
時に、壁の蔭《かげ》の、昼も薄暗い、香《こう》の薫《かおり》のする尊い御厨子《みずし》の中に、晃然《きらり》と輝いたのは、妙見宮《みょうけんぐう》の御手《おん
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