に分れた。
 其の都度《つど》ヒヤリとして、針の尖《さき》で突くと思ふばかりの液体を、其処此処《そこここ》滴《したた》らすから、幽《かすか》に覚えて居る種痘《しゅとう》の時を、胸を衝《つ》くが如くに思ひ起して、毒を射されるかと舌が硬《こわ》ばつたのである。
 まあ、何処《どこ》から襲つて来たのであらうと考へると、……其では無いか。
 店へ来る客の中に、過般《いつか》、真桑瓜《まくわうり》を丸ごと齧《かじ》りながら入つた田舎者《いなかもの》と、それから帰りがけに酒反吐《さけへど》をついた紳士があつた。其の事を謂《い》ふ毎《ごと》に、姉は面《おもて》を蔽《おお》ふ習慣《ならい》、大方|其《そ》の者《もの》等《ら》の身体《からだ》から姉の顔を掠《かす》めて、暖簾《のれん》を潜《くぐ》つて、部屋《ここ》まで飛込《とびこ》んで来たのであらう、……其よ、謂《い》ひやうのない厭《いや》な臭気《におい》がするから。
 と思ふ、愈々《いよいよ》胸さきが苦しくなつた。其に今がつくりと仰向《あおむ》いてから、天窓《あたま》も重く、耳もぼつとして、気が遠くなつて行《ゆ》く。――
 焦《じ》れるけれども手はだる
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