か。」
「進藤|延一《のぶかず》と申します。」
「何だ、進藤延一、へい、変に学問をしたような、ハイカラな名じゃねえか。」
と言葉じりもしどろになって、頤《あご》を引込《ひっこ》めたと思うと、おかしく悄気《しょげ》たも道理こそ。刑事と威《おど》した半纏着は、その実町内の若いもの、下塗《したぬり》の欣八《きんぱち》と云う。これはまた学問をしなそうな兄哥《あにい》が、二七講の景気づけに、縁日の夜《よ》は縁起を祝って、御堂|一室処《ひとまどころ》で、三宝を据えて、頼母子《たのもし》を営む、……世話方で居残ると……お燈明の消々《きえぎえ》時、フト魔が魅《さ》したような、髪|蓬《おどろ》に、骨|豁《あらわ》なりとあるのが、鰐口《わにぐち》の下に立顕《たちあらわ》れ、ものにも事を欠いた、断《ことわ》るにもちょっと口実の見当らない、蝋燭の燃えさしを授けてもらって、消えるがごとく門を出たのを、ト伸上って見ていた奴。
「棄ててはおかれませんよ、串戯《じょうだん》じゃねえ。あの、魔ものめ。ご本尊にあやかって、めらめらと背中に火を背負《しょ》って帰ったのが見えませんかい。以来、下町は火事だ。僥倖《しあわせ》
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