菎蒻本
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)如月《きさらぎ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)冬|籠《ごも》る
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》
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一
如月《きさらぎ》のはじめから三月の末へかけて、まだしっとりと春雨にならぬ間を、毎日のように風が続いた。北も南も吹荒《ふきすさ》んで、戸障子を煽《あお》つ、柱を揺《ゆす》ぶる、屋根を鳴らす、物干棹《ものほしざお》を刎飛《はねと》ばす――荒磯《あらいそ》や、奥山家、都会離れた国々では、もっとも熊を射た、鯨を突いた、祟《たた》りの吹雪に戸を鎖《さ》して、冬|籠《ごも》る頃ながら――東京もまた砂|埃《ほこり》の戦《たたかい》を避けて、家ごとに穴籠りする思い。
意気な小家《こいえ》に流連《いつづけ》の朝の手水《ちょうず》にも、砂利を含んで、じりりとする。
羽目も天井も乾いて燥《はしゃ》いで、煤《すす》の引
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