両肱《りょうひじ》へ巻込んで、汝《てめえ》が着るように、胸にも脛《すね》にも搦《から》みつけたわ、裾《すそ》がずるずると畳へ曳《ひ》く。
 自然とほてりがうつるんだってね、火の燃える蝋燭は、女のぬくみだッさ、奴が言う、……可《よ》うがすかい。
 頬辺《ほっぺた》を窪ますばかり、歯を吸込んで附着《くッつ》けるんだ、串戯《じょうだん》じゃねえ。
 ややしばらく、魂が遠くなったように、静《じっ》としていると思うと、襦袢の緋が颯《さっ》と冴えて、揺れて、靡《なび》いて、蝋に紅《あか》い影が透《とお》って、口惜《くやし》いか、悲《かなし》いか、可哀《あわれ》なんだか、ちらちらと白露を散らして泣く、そら、とろとろと煮えるんだね。嗅《か》ぐさ、お前さん、べろべろと舐《な》める。目から蝋燭の涙を垂らして、鼻へ伝わらせて、口へ垂らすと、せいせい肩で呼吸《いき》をする内に、ぶるぶると五体を震わす、と思うとね、横倒れになったんだ。さあ、七顛八倒《しちてんばっとう》、で沼みたいな六畳どろどろの部屋を転摺《のめず》り廻る……炎が搦《から》んで、青蜥蜴《あおとかげ》の※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
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