打《のたう》つようだ。
私《わっし》あ夢中で逃出した。――突然《いきなり》見附へ駈着《かけつ》けて、火の見へ駈上《かけあが》ろうと思ったがね、まだ田町から火事も出ずさ。
何しろ馬鹿だね、馬鹿も通越しているんだね。」
お不動様の御堂《みどう》を敲《たた》いて、夜中にこの話をした、下塗《したぬり》の欣八が、
「だが、いい女らしいね。」
と、後へ附加えた了簡《りょうけん》が悪かった。
「欣八、気を附けねえ。」
「顔色が変だぜ。」
友達が注意するのを、アハハと笑消して、
「女《あま》がボーッと来た、下町ア火事だい。」と威勢よく云っていた。が、ものの三月と経《た》たぬ中《うち》にこのべらぼう、たった一人の女房の、寝顔の白い、緋手絡《ひてがら》の円髷《まるまげ》に、蝋燭を突刺《つッさ》して、じりじりと燃して火傷《やけど》をさした、それから発狂した。
但し進藤とは違う。陰気でない。縁日とさえあればどこへでも押掛けて、鏝塗《こてぬり》の変な手つきで、来た来たと踊りながら、
「蝋燭をくんねえか。」
怪《あやし》むべし、その友達が、続いて――また一人。…………
[#地から1字上げ]大正二(一
前へ
次へ
全40ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング