気の毒だと思ってその女がくれたんだろうね、緋《ひ》の長襦袢《ながじゅばん》をどうだろう、押入の中へ人形のように坐らせた。胴へは何を入れたかね、手も足もないんでさ。顔がと云うと、やがて人ぐらいの大きさに、何十挺だか蝋燭を固めて、つるりとやっぱり蝋を塗って、細工をしたんで。そら、燃えさしの処が上になってるから、ぽちぽち黒く、女鳴神《おんななるかみ》ッて頭でさ。色は白いよ、凄《すご》いよ、お前さん、蝋だもの。
 私《わっし》あ反《そ》ったねえ、押入の中で、ぼうとして見えた時は、――それをね、しなしなと引出して、膝へ横抱きにする……とどうです。
 欠火鉢《かけひばち》からもぎ取って、その散髪《ざんぎり》みたいな、蝋燭の心へ、火を移す、ちろちろと燃えるじゃねえかね。
 ト舌は赤いよ、口に締りをなくして、奴め、ニヤニヤとしながら、また一挺、もう一本、だんだんと火を移すと、幾筋も、幾筋も、ひょろひょろと燃えるのが、搦《から》み合って、空へ立つ、と火尖《ひさき》が伸びる……こうなると可恐《おそろ》しい、長い髪の毛の真赤《まっか》なのを見るようですぜ。
 見る見る、お前さん、人前も構う事か、長襦袢の肩を
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