手足の指を我と折って、頭髪《ずはつ》を掴《つか》んで身悶《みもだ》えしても、婦《おんな》は寝るのに蝋燭を消しません。度かさなるに従って、数を増し、燈《ひ》を殖《ふや》して、部屋中、三十九本まで、一度に、神々の名を輝かして、そして、黒髪に絵蝋燭の、五色の簪を燃して寝る。
 その媚《なまめ》かしさと申すものは、暖かに流れる蝋燭より前《さき》に、見るものの身が泥になって、熔《と》けるのでございます。忘れません。
 困果と業《ごう》と、早やこの体《てい》になりましたれば、揚代《あげだい》どころか、宿までは、杖に縋《すが》っても呼吸《いき》が切れるのでございましょう。所詮の事に、今も、婦《おんな》に遣わします気で、近い処の縁日だけ、蝋燭の燃えさしを御合力《おごうりょく》に預ります。すなわちこれでございます。」
 と袂《たもと》を探ったのは、ここに灯《ひとも》したのは別に、先刻《さっき》の二七のそれであった。
 犬のしきりに吠《ほ》ゆる時――
「で、さてこれを何にいたすとお思いなさいます。懺悔《ざんげ》だ、お目に掛けるものがある。」
「大変だ、大変だ。何だって和尚さん、奴もそれまでになったんだ。
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