す、何|転進《てんじん》とか申すのにばかり結う。
何と絵蝋燭を燃したのを、簪で、その髷《まげ》の真中へすくりと立てて、烏羽玉《うばたま》の黒髪に、ひらひらと篝火《かがりび》のひらめくなりで、右にもなれば左にもなる、寝返りもするのでございます。
――こうして可愛がって下さいますなら、私ゃ死んでも本望です――
とこれで見るくらいまた、白露のその美しさと云ってはない。が、いかな事にも、心を鬼に、爪を鷲《わし》に、狼の牙《きば》を噛鳴《かみな》らしても、森で丑《うし》の時|参詣《まいり》なればまだしも、あらたかな拝殿で、巫女《みこ》の美女を虐殺《なぶりごろ》しにするようで、笑靨《えくぼ》に指も触れないで、冷汗を流しました。……
それから悩乱。
因果と思切れません……が、
――まあ嬉しい――
と云う、あの、容子《ようす》ばかりも、見て生命《いのち》が続けたさに、実際、成田へも中山へも、池上、堀の内は申すに及ばず。――根も精も続く限り、蝋燭の燃えさしを持っては通い、持っては通い、身も裂き、骨も削りました。
昏《くら》んだ目は、昼遊びにさえ、その燈《ともしび》に眩《まぶ》しいので。
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