》りと灯が据《すわ》った。
「寂然《しん》としておりますので、尋常《ただ》のじゃない、と何となくその暗い灯に、白い影があるらしく見えました。
これは、下谷の、これは虎の門の、飛んで雑司《ぞうし》ヶ谷のだ、いや、つい大木戸のだと申して、油皿の中まで、十四五挺、一ツずつ消しちゃ頂いて、それで一ツずつ、生々《なまなま》とした香《におい》の、煙……と申して不思議にな、一つ色ではございません。稲荷様《いなりさま》のは狐色と申すではないけれども、大黒天のは黒く立ちます……気がいたすのでございます。少し茶色のだの、薄黄色だの、曇った浅黄がございましたり。
その燃えさしの香《におい》の立つ処を、睫毛《まつげ》を濃く、眉を開いて、目を恍惚《うっとり》と、何と、香《におい》を散らすまい、煙を乱すまいとするように、掌《てのひら》で蔽《おお》って余さず嗅《か》ぐ。
これが薬なら、身体《からだ》中、一筋ずつ黒髪の尖《さき》まで、血と一所に遍《あまね》く膚《はだ》を繞《めぐ》った、と思うと、くすぶりもせずになお冴《さ》える、その白い二の腕を、緋の袖で包みもせずに、……」
聞く欣八は変な顔色《がんしょく》。
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