わがまま》と存じて遠慮しました。今度ッからは、たとい私をお誑《だま》しでも、蝋燭の嘘を仰有《おっしゃ》るとほんとうに怨みますよ、と優しい含声《ふくみごえ》で、ひそひそと申すんで。
もう、実際嘘は吐《つ》くまい、と思ったくらいでございます。
部屋着を脱ぐと、緋《ひ》の襦袢《じゅばん》で、素足がちらりとすると、ふッ、と行燈を消しました。……底に温味《あたたかみ》を持ったヒヤリとするのが、酒の湧《わ》く胸へ、今にもいい薫《かおり》で颯《さっ》と絡《まつ》わるかと思うと、そうでないので。――
カタカタと暗がりで箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》を開けましたがな。
――水天宮様のをお目に掛けましょう――
そう云って、柔らかい膝の衣摺《きぬず》れの音がしますと、燐寸《マッチ》を※[#「火+發」、248−3]《ぱっ》と摺《す》った。」
「はあ、」
と欣八は、その※[#「火+發」、248−5]とした……瞬きする。
「で、朱塗の行燈の台へ、蝋燭を一|挺《ちょう》、燃えさしのに火を点《とも》して立てたのでございます。」
と熟《じっ》と瞻《みまも》る、とここの蝋燭が真直《まっすぐ》に、細《ほっそ
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