の入れ方でございまして。
 どうでございましょう。これが直《じ》き近所の車夫の看板から、今しがた煙草を吸って、酒粘《さけねば》りの唾《つばき》を吐いた火の着いていたやつじゃございますまいか。
 なんぼでも、そうまで真《しん》になって嬉しがられては、灰吹を叩いて、舌を出すわけには参りません。
 実は、とその趣を陳《の》べて、堪忍しな、出来心だ。そのかわり、今度は成田までもわざわざ出向くから、と申しますと、婦《おんな》が莞爾《にっこり》して言うんでございます。
 これほどまでに、生命《いのち》がけで好きなんですもの、どこの、どうした蝋燭だか、大概は分ります。一度燃えたのですから、その香《におい》で、消えてからどのくらい経《た》ったかが知れますと、伺った路順で、下谷《したや》だが浅草だが推量が付くんです。唯今《ただいま》下すったのは、手に取ると、すぐに直き近い処だとは思いました、……では、大宗寺《だいそうじ》様のかと存じましたが、召上った煙草の粉が附着《くッつ》いていますし、御縁日ではなし、かたがた悪戯《いたずら》に、お欺《かつ》ぎだとは知ったんですが、お初会の方に、お怨みを言うのも、我儘《
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