供えたのだ、と持つ手もわななく、体《み》を震わして喜ぶんだ、とかねて聞いておりましたものでございますから、その晩は、友達と銀座の松喜で牛肉をしたたか遣りました、その口で、
 ――水天宮様のだ、人形町の――
 と申したでございます。電車の方角で、フト思い付きました。銀座には地蔵様もございますが、一言で、誰も分るのをと思いましてな。ええ。……」
 とじろじろと四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す。
 欣八は同じように、きょろきょろと頭を振る。

       九

「お聞き下さい。」
 と痩《や》せた膝を痛そうに、延一は居直って、
「かねて噂を聞いたから、おいらんの土産にしようと思って、水天宮様の御蝋の燃えさしを頂いて来たんだよ、と申しますと、端然《きちん》と居坐《いずまい》を直して、そのふっくりした乳房へ響くまで、身に染みて、鳩尾《みずおち》へはっと呼吸《いき》を引いて、
 ――まあ、嬉しい――
 とちゃんと取って、蝋燭を頂くと、さもその尊さに、生際《はえぎわ》の曇った白い額から、品物は輝いて後光が射《さ》すように思われる、と申すものは、婦《おんな》の気
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