》めていますと、畳んだ袖を、一つ、スーと扱《しご》いた時、袂《たもと》の端で、指尖《ゆびさき》を留めましたがな。
 横顔がほんのりと、濡れたような目に、柔かな眉《まみえ》が見えて、
 貴方《あなた》は御存じね――」
 延一は続けさまに三つばかり、しゃがれた咳《せき》して、
「私《てまえ》に、残らず自分の事を知っていて来たのだろうと申しまして、――頂かして下さいましな、手を入れますよ、大事ござんせんか――
 と念を押して、その袂から、抜いて取ったのが、右の蝋燭でございます。」
「へい、」と欣八は這身《はいみ》に乗出す。
「が、その美人。で、玉で刻んだ独鈷《とっこ》か何ぞ、尊いものを持ったように見えました。
 遣手も心得た、成りたけは隠す事、それと言わずに逢わせた、とこう私《てまえ》は思う。……
 ――どちらの御蝋でござんすの――
 また、そう訊くのがお極《きま》りだと申します。……三度のもの、湯水より、蝋燭でさえあれば、と云う中《うち》にも、その婦《おんな》は、新《あら》のより、燃えさしの、その燃えさしの香《におい》が、何とも言えず快い。
 その燃えさしもございます。
 一度、神仏の前に
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