だ蝋燭の事ばかり。でございますから、圧附《おしつ》けに、勝手な婦《おんな》を取持たれました時は、馬鹿々々しいと思いましたが、因果とその婦《おんな》の美しさ。
成程、桔梗屋の白露か、玉の露でも可い位。
けれども、楼《うち》なり、場所柄なり、……余り綺麗なので、初手は物凄《ものすご》かったのでございます。がいかにも、その病気があるために、――この容色《きりょう》、三絃《いと》もちょっと響く腕で――蹴《け》ころ同然な掃溜《はきだめ》へ落ちていると分りますと、一夜妻のこの美しいのが……と思う嬉しさに、……今の身で、恥も外聞もございません。筋も骨もとろとろと蕩《とろ》けそうになりました。……
枕頭《まくらもと》の行燈《あんどん》の影で、ええ、その婦《おんな》が、二階廻しの手にも投遣《なげや》らないで、寝巻に着換えました私《てまえ》の結城木綿《ゆうきもめん》か何か、ごつごつしたのを、絹物《やわらかもの》のように優しく扱って、袖畳《そでだたみ》にしていたのでございます。
部屋着の腰の巻帯には、破れた行燈の穴の影も、蝶々のように見えて、ぞくりとする肩を小夜具で包んで、恍惚《うっとり》と視《なが
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