爺《じい》さんだと言わあ。早い話がじゃ、この一棟四軒長屋の真暗《まっくら》な図体の中に、……」
と鏝《こて》を塗って、
「まあ、可《い》やね、お前《めえ》、別にお前、怪しいたッて、何も、ねえ、まあ、お互に人間に変りはねえんだから、すぐにさようならにしようと思った。だけれど、話の口明《くちあけ》が、宿《しゅく》の女郎だ。おまけに別嬪《べっぴん》と来たから、早い話が。
でまあ、その何だ、私《わっし》も素人じゃねえもんだから、」
と目潰《めつぶ》しの灰の気さ。
「一ツ詮索《せんさく》をして帰ろう、と居坐ったがね、……気にしなさんな。別にお前の身体《からだ》を裏返しにして、綺麗に洗いだてをしようと云うんじゃねえ。可いから、」
と云う中《うち》にも、じろりと視《み》る、そりゃ光るわ、で鏝を塗って、
「大目に見てやら。ね、早い話が。僕は帰るよ、気にしなさんな。」
「ええ、いや、私《てまえ》の方で、気にしない次第《わけ》には参りません。」
欣八、ぎょっとして、
「そうかね、……はてね。……トオカミ、エミタメはどんなものだ。」と字《あざな》は孔明、琴を弾く。
八
「で、その
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