、擬勢は示すが、川柳に曰く、鏝塗《こてぬ》りの形に動く雲の峰で、蝋燭の影に蟠《わだかま》る魔物の目から、身体《からだ》を遮りたそうに、下塗の本体、しきりに手を振る。……
「可《い》いかね、ちょいと岡引《おかっぴき》ッて、身軽な、小意気な処を勤めるんだ。このお前《めえ》、しっきりなし火沙汰の中さ。お前、焼跡で引火奴《ほくち》を捜すような、変な事をするから、一つ素引《しょぴ》いてみたまでのもんさね。直ぐにも打縛《ふんじば》りでもするように、お前、真剣《しんけん》になって、明白《あかり》を立てる立てるッて言わあ。勿論、何だ、御用だなんて威《おど》かしたには威しましたさ、そりゃ発奮《はずみ》というもんだ。
 明白《あかし》を立てます立てますッて、ここまで連れて来るから、途中で小用も出来ずさね、早い話が。
 隣家《となり》は空屋だと云うし、……」
 と、頬被《ほおかぶり》のままで、後を見た、肩を引いて、
「一軒隣は按摩《あんま》だと云うじゃねえか。取附《とッつ》きの相角がおでん屋だッて、かッと飲んだように一景気附いたと思や、夫婦で夜なしに出て、留守は小児《こども》の番をする下性《げしょう》の悪い
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