はございません、ですが御覧の通り、当場所も疾《とう》の以前から、かように電燈になりました。……ひきつけの遊君《おいらん》にお見違えはございません。別して、貴客様《あなッさま》なぞ、お目が高くっていらっしゃいます、へい、えッへへへへ。もっとも、その、ちとあちらへ、となりまして、お望みとありますれば、」
「だから、望みだから、お照しを出せよ。」
「それは、お照しなり、行燈《あんどん》なり、いかようともいたしますんで、とにかく、……夜も更けております事、遊君《おいらん》の処を、お早く、どうぞ。」
と、ちらりと遣手部屋へ目を遣って、此奴《こいつ》、お荷物だ、と仕方で見せた。
「分らないな。」
と煙管《きせる》を突込《つっこ》んで、ばったり置くと、赤毛氈《あかもうせん》に、ぶくぶくして、擬《まがい》印伝の煙草入は古池を泳ぐ体《てい》なり。
「女は蝋燭だと云ってるんだ。」
お媼《ば》さんが突掛《つっか》け草履で、片手を懐に、小楊枝を襟先へ揉挿《もみさ》しながら、いけぞんざいに炭取を跨《また》いで出て、敷居越に立ったなり、汚点《しみ》のある額越しに、じろりと視《み》て、
「遊君《おいらん》が綺
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