「わあ、助けてくれ。」
「お前さん、可《い》い御機嫌で。」
 とニヤリと口を開けた、お媼《ば》さんの歯の黄色さ。横に小楊枝《こようじ》を使うのが、つぶつぶと入る。
 若い衆飛んで来て、腰を極《き》めて、爪先《つまさき》で、ついつい、
「ちょっと、こちらへ。」
 と古畳八畳敷、狸を想う真中《まんなか》へ、性《しょう》の抜けた、べろべろの赤毛氈《あかもうせん》。四角でもなし、円《まる》でもなし、真鍮《しんちゅう》の獅噛《しがみ》火鉢は、古寺の書院めいて、何と、灰に刺したは杉の割箸《わりばし》。
 こいつを杖《つえ》という体《てい》で、客は、箸を割って、肱《ひじ》を張り、擬勢を示して大胡坐《おおあぐら》に※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》となる。
「ええ。」
 と早口の尻上りで、若いものは敷居際に、梯子段見通しの中腰。
「お馴染様は、何方《どなた》様で……へへへ、つい、お見外《みそ》れ申しましてございまして、へい。」
「馴染はないよ。」
「御串戯《ごじょうだん》を。」
「まったくだ。」
「では、その、へへへ、」
「何が可笑《おか》しい。」
「いえ、その、お古い処を……お
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