の巣に騒見《ぞめ》く、梟《ふくろう》という形で、も一度線路を渡越《わたりこ》した、宿《しゅく》の中ほどを格子摺《こうしず》れに伸《の》しながら、染色《そめいろ》も同じ、桔梗屋、と描《か》いて、風情は過ぎた、月明りの裏打をしたように、横店の電燈《でんき》が映る、暖簾《のれん》をさらりと、肩で分けた。よしこことても武蔵野の草に花咲く名所とて、廂《ひさし》の霜も薄化粧、夜半《よわ》の凄《すご》さも狐火《きつねび》に溶けて、情《なさけ》の露となりやせん。
「若い衆《しゅ》、」
「らっしゃい!」
「遊ぶぜ。」
「難有《ありがと》う様で、へい、」と前掛《まえかけ》の腰を屈《かが》める、揉手《もみで》の肱《ひじ》に、ピンと刎《は》ねた、博多帯《はかたおび》の結目《むすびめ》は、赤坂|奴《やっこ》の髯《ひげ》と見た。
「振らないのを頼みます。雨具を持たないお客だよ。」
「ちゃんとな、」
 と唐桟《とうざん》の胸を劃《しき》って、
「胸三寸。……へへへ、お古い処、お馴染効《なじみがい》でございます、へへへ、お上んなはるよ。」
 帳場から、
「お客様ア。」
 まんざらでない跫音《あしおと》で、トントンと踏
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