違います……酔覚めの煙草は蝋燭の火で喫《の》むと極《きま》ったもんだ。……だが……心意気があるなら、鼻紙を引裂《ひっさ》いて、行燈《あんどん》の火を燃して取って、長羅宇《ながらう》でつけてくれるか。」
 と中腰に立って、煙管を突込《つっこ》む、雁首《がんくび》が、ぼっと大きく映ったが、吸取るように、ばったりと紙になる。
「消した、お前さん。」
 内証《ないしょ》で舌打。
 霜夜に芬《ぷん》と香が立って、薄い煙が濛《もう》と立つ。
「車夫《くるまや》。」
「何ですえ。」
「……宿《しゅく》に、桔梗屋《ききょうや》[#ルビの「ききょうや」は底本では「ききやうや」]と云うのがあるかい、――どこだね。」
「ですから、お供を願いたいんで、へい、直《じ》きそこだって旦那、御冥加《ごみようが》だ。御祝儀と思召して一つ暖まらしておくんなさいまし、寒くって遣切《やりき》れませんや。」とわざとらしく、がちがち。
「雲助め。」
 と笑いながら、
「市ヶ谷まで雇ったんだ、賃銭は遣るよ、……車は要らない。そのかわり、蝋燭の燃えさしを貰って行《ゆ》く。……」

       五

 さて酔漢《よっぱらい》は、山鳥
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