の、嫁菜の縮緬《ちりめん》の裡《なか》で、幽霊はもう消滅だ。」
「幽霊も大袈裟だがよ、悪く、蜻蛉に祟《たた》られると、瘧《おこり》を病むというから可恐《おっかね》えです。縄をかけたら、また祟って出やしねえかな。」
と不精髯の布子が、ぶつぶついった。
「そういう口で、何で包むもの持って来ねえ。糸塚さ、女※[#くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]様、素《す》で括《くく》ったお祟りだ、これ、敷松葉の数寄屋《すきや》の庭の牡丹に雪囲いをすると思えさ。」
「よし、おれが行く。」
と、冬の麦稈帽《むぎわらぼう》が出ようとする。
「ああ、ちょっと。」
袖を開いて、お米が留めて、
「そのまま、その上からお結《いわ》えなさいな。」
不精髯が――どこか昔の提灯屋に似ていたが、
「このままでかね、勿体《もってい》至極もねえ。」
「かまいませんわ。」
「構わねえたって、これ、縛るとなると。」
「うつくしいお方が、見てる前で、むざとなあ。」
麦藁《むぎわら》と、不精髯が目を見合って、半ば呟《つぶや》くがごとくにいう。
「いいんですよ、構いませんから。」
この時、丸太棒が鉄のように見え
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