がっしりと、立派なお堂を据えて戸をあけたてしますだね、その中へこの……」
 お米は着流しのお太鼓で、まことに優に立っている。
「おお、成仏をさっしゃるずら、しおらしい、嫁菜の花のお羽織きて、霧は紫の雲のようだ、しなしなとしてや。」
 と、苔《こけ》の生えたような手で撫《な》でた。
「ああ、擽《くすぐ》ったい。」
「何でがすい。」
 と、何も知らず、久助は墓の羽織を、もう一撫で。
「この石塔を斎《いつ》き込むもくろみだ。その堂がもう出来て、切組みも済ましたで、持込んで寸法をきっちり合わす段が、はい、ここはこの通り足場が悪いと、山門|内《うち》まで運ぶについて、今日さ、この運び手間だよ。肩がわりの念入りで、丸太棒《まるたんぼう》で担《かつ》ぎ出しますに。――丸太棒めら、丸太棒を押立《おった》てて、ごろうじませい、あすこにとぐろを巻いていますだ。あのさきへ矢羽根をつけると、掘立普請の斎《とき》が出るだね。へい、墓場の入口だ、地獄の門番……はて、飛んでもねえ、肉親のご新姐ござらっしゃる。」
 と、泥でまぶしそうに、口の端《はた》を拳《こぶし》でおさえて、
「――そのさ、担ぎ出しますに、石の直肌
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