た荒縄を手繰棄てに背後《うしろ》へ刎出《はねだ》しながら、きょろきょろと樹の空を見廻した。
妙なもので、下木戸の日傭取たちも、申合せたように、揃って、踞《かが》んで、空を見る目が、皆動く。
「いい塩梅《あんばい》に、幽霊蜻蛉、消えただかな。」
「一体何だね、それは。」
「もの、それがでござりますよ、お客様、この、はい、石塔を動かすにつきましてだ。」
「いずれ、あの糸塚とかいうのについての事だろうが、何かね、掘返してお骨でも。」
「いや、それはなりましねえ。記念碑発起押っぽだての、帽子、靴、洋服、袴《はかま》、髯《ひげ》の生えた、ご連中さ、そのつもりであったれど、寺の和尚様、承知さっしゃりましねえだ。ものこれ、三十年|経《た》ったとこそいえ、若い女※[#くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《じょうろう》が埋《うま》ってるだ。それに、久しい無縁墓だで、ことわりいう檀家もなしの、立合ってくれる人の見分もないで、と一論判《ひとろっぱん》あった上で、土には触らねえ事になったでがす。」
「そうあるべき処だよ。」
「ところで、はい、あのさ、石彫《いしぼり》の大《でけ》え糸枠の上へ、
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