ら》が、墓地下で口をあけて、もう喚《わめ》き、冷めし草履の馴《な》れたもので、これは磽※[#「石+角」、第3水準1−89−6]《こうかく》たる径《みち》は踏まない。草土手を踏んで横ざまに、傍《そば》へ来た。
 続いて日傭取《ひようとり》が、おなじく木戸口へ、肩を組合って低く出た。
「ごめんなせえましよ、お客様。……ご機嫌よくこうやってござらっしゃる処を見ると、間違《まちげ》えごともなかったの、何も、別条はなかっただね。」
「ところが、おっさん、少々別条があるんですよ。きみたちの仕事を、ちょっと無駄にしたぜ。一杯買おう、これです、ぶつぶつに縄を切払《きっぱら》った。」
「はい、これは、はあ、いい事をさっせえて下さりました。」
「何だか、あべこべのような挨拶だな。」
「いんね、全くいい事をなさせえました。」
「いい事をなさいましたじゃないわ、おいたわしいじゃないの、女※[#くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]さんがさ。」
「ご新姐、それがね、いや、この、からげ縄、畜生。」
 そこで、踞《かが》んで、毛虫を踏潰《ふみつぶ》したような爪さきへ近く、切れて落ちた、むすびめの節立っ
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