逢っては、きっとおなじはからいをするに疑いない。そのかわり、娘と違い、落着いたもので、澄まして羽織を脱ぎ、背負揚《しょいあげ》を棄て、悠然と帯を巌《いわお》に解いて、あらわな長襦袢《ながじゅばん》ばかりになって、小袖ぐるみ墓に着せたに違いない。
 何、夏なら、炎天なら何とする?……と。そういう皮肉な読者《おかた》には弱る、が、言わねば卑怯《ひきょう》らしい、裸体《はだか》になります、しからずんば、辻町が裸体にされよう。
 ――その墓へはまず詣でた――
 引返《ひっかえ》して来たのであった。
 辻町の何よりも早くここでしよう心は、立処《たちどころ》に縄を切って棄てる事であった。瞬時といえども、人目に曝《さら》すに忍びない。行《や》るとなれば手伝おう、お米の手を借りて解きほどきなどするのにも、二人の目さえ当てかねる。
 さしあたり、ことわりもしないで、他の労業を無にするという遠慮だが、その申訳と、渠等《かれら》を納得させる手段は、酒と餅で、そんなに煩わしい事はない。手で招いても渋面の皺《しわ》は伸びよう。また厨裡《くり》で心太《ところてん》を突くような跳梁権《ちょうりょうけん》を獲得してい
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