んじゃねえだア。」
いかにも、そんげえなものには怯《おび》えまい、面魂、印半纏《しるしばんてん》も交って、布子のどんつく、半股引《はんももひき》、空脛《からずね》が入乱れ、屈竟《くっきょう》な日傭取が、早く、糸塚の前を摺抜けて、松の下に、ごしゃごしゃとかたまった中から、寺爺やの白い眉の、びくびくと動くが見えて、
「蜻蛉だあ。」
「幽霊蜻蛉ですだアい。」
と、冬の麦稈帽《むぎわらぼう》を被《かぶ》った、若いのが声を掛けた。
「蜻蛉なら、幽霊だって。」
お米は、莞爾《にっこり》して坂上りに、衣紋《えもん》のやや乱れた、浅黄を雪に透く胸を、身繕いもせず、そのまま、見返りもしないで木戸を入った。
巌《いわ》は鋭い。踏上る径《みち》は嶮《けわ》しい。が、お米の双の爪さきは、白い蝶々に、おじさんを載せて、高く導く。
「何だい、今のは、あれは。」
「久助って、寺爺やです。卵塔場で働いていて、休みのお茶のついでに、私をからかったんでしょう。子供だと思っている。おじさんがいらっしゃるのに、見さかいがない。馬鹿だよ。」
「若いお前さんと、一緒にからかわれたのは嬉しいがね、威《おど》かすにしても、寺
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