。片手には、頑丈な、錆《さび》の出た、木鋏《きばさみ》を構えている。
この大剪刀《おおばさみ》が、もし空の樹の枝へでも引掛《ひっかか》っていたのだと、うっかり手にはしなかったろう。盂蘭盆の夜が更けて、燈籠が消えた時のように、羽織で包んだ初路の墓は、あわれにうつくしく、且つあたりを籠めて、陰々として、鬼気が籠《こも》るのであったから。
鋏は落ちていた。これは、寺男の爺やまじりに、三人の日傭取《ひようとり》が、ものに驚き、泡を食って、遁出《にげだ》すのに、投出したものであった。
その次第はこうである。
はじめ二人は、磴《いしだん》から、山門を入ると、広い山内、鐘楼なし。松を控えた墓地の入口の、鎖《とざ》さない木戸に近く、八分出来という石の塚を視《み》た。台石に特に意匠はない、つい通りの巌組一丈余りの上に、誂《あつら》えの枠を置いた。が、あの、くるくると糸を廻す棒は見えぬ。くり抜いた跡はあるから、これには何か考案があるらしい。お米もそれはまだ知らなかった。枠の四つの柄《え》は、その半面に対しても幸《さいわい》に鼎《かなえ》に似ない。鼎に似ると、烹《に》るも烙《や》くも、いずれ繊楚《か
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