さんが、そんな姿絵を、紅い毛、碧《あお》い目にまで、露呈《あらわ》に見せて、お宝を儲けたように、唱い立てられて見た日には、内気な、優しい、上品な、着ものの上から触られても、毒蛇の牙形《はがた》が膚《はだ》に沁《し》みる……雪に咲いた、白玉椿のお人柄、耳たぶの赤くなる、もうそれが、砕けるのです、散るのです。
 遺書《かきおき》にも、あったそうです。――ああ、恥かしいと思ったばかりに――」
「察しられる。思いやられる。お前さんも聞いていようか。むかし、正しい武家の女性《にょしょう》たちは、拷問《ごうもん》の笞《しもと》、火水の責にも、断じて口を開かない時、ただ、衣《きぬ》を褫《うば》う、肌着を剥《は》ぐ、裸体にするというとともに、直ちに罪に落ちたというんだ。――そこへ掛けると……」
 辻町は、かくも心弱い人のために、西班牙《スペイン》セビイラの煙草工場のお転婆を羨《うらや》んだ。
 同時に、お米の母を思った。お京がもしその場に処したら、対手《あいて》の工女の顔に象棋盤《しょうぎばん》の目を切るかわりに、酢ながら心太《ところてん》を打《ぶ》ちまけたろう。
「そこへ掛けると平民の子はね。」
 
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